2022.01.28 UP
テクノロジーの進化や生活者の意識も高まり、世の中に健康思考が根付いています。それでも健康であることは「願い」であり、思うようにコントロールすることは難しいもの?!羔t療」を突き詰めるのはドクターや醫療専門家の領域ですが、雙日はインフラ?ヘルスケア本部を通じて便利で健康な世の中を形づくっています。今よりも健康でいられる未來は、どうすれば手に入るのでしょうか。インフラ?ヘルスケア本部長?橋本政和が市川紗椰さんをゲストに迎え、これからのウェルネスについて考えてみました。
Photograph_Tomoki Kuwajima
Hair&Make_Shohei Inoue
Text / Edit_Shota Kato
橋本:市川さんはデトロイトにお住まいだった時期がありますよね。私、海外勤務していた頃に1999年から5年半ほど暮らしていたことがあるんです。
市川:え、そうなんですか!どこかですれ違っていたかもしれませんね。
橋本:市川さんとはデトロイトつながりもあるということで、今日はよろしくお願いします?!溉松?00年時代、長壽の時代」と言われるようになってきましたが、市川さんは健康についてどんなことが気になっていますか?
市川:クオリティ?オブ?ライフ(以下QOL)をこれからどうやって保っていけるのかを年々肌で感じるようになってきました。同じくらいに「平均壽命より健康壽命」という言葉もよく耳にしますけど、たとえば日本人女性の平均壽命って何歳くらいなんですか?
橋本:約87歳と言われていますね。健康壽命は約75歳ですから、病気などによって介護や支援などが必要になってから亡くなるまでに約12年間も時間があるんですよ。介護が必要となる主な原因は、認知癥や脳血管疾患であり、生活習慣と深く関わりのある病気なんです。認知癥は高血圧や糖尿病といった生活習慣病が影響を與えているというデータも出ています。
市川:私は長く生きられたとしても辛ければしんどいと思ってしまいます。長壽の世の中に対して、雙日はどうやって貢獻していけるんですか?
橋本:雙日は総合商社なので、醫療については素人です。病院の醫療行為や醫療技術の発達には直接的には関われません。その意味における私たちの立ち位置は、必要とされている醫療サービスを、必要とされている場所に、効率的に提供するということです。そこから世の中の健康と経済に貢獻していきたいと考えています。たとえば2021年3月に、アジア?大洋州で300か所程度の施設を展開するクリニックチェーンに參畫しました。
市川:クリニックチェーンって馴染みのない言葉だと思いますが、どういったものなんですか?
橋本:たとえると、町醫者のコンビニ化でしょうか。コンビニって安心感があるじゃないですか。全國どこに行っても見慣れた商品が置いてあって、品質が擔保されていて、24時間営業している。そうやってクリニックも同じブランドとしてチェーン化されていけば、わかりづらい醫療サービスを均質化でき、生活者に寄り添える仕組みを構築できると考えています。
日本では営利企業が醫療機関の経営に參畫することはできず、チェーンというビジネス形態も一般的ではありませんが、海外ではビジネスとしてクリニックチェーンが展開されている國があるんです。共通のITシステムや経営スタイルをとることでコストを抑えられますし、企業として利益が出るので醫療費の削減にもつながっていく。私たちは海外でネットワークや知見を蓄積して、將來は日本に持ってきたいと考えています。
市川:たしかに醫療や健康って私たちにとって身近だからこそ、24時間いつでも駆け込めるところがあってもいいはずですよね。日本でも、もっと気軽に利用できるようになってほしいです。
市川:私も身のまわりの人たちも健康の意識が高まっていて、運動や健康の話をする機會が自然と増えてきました。そういった健康志向の高まりは未病や予防にもつながりますよね。
橋本:おっしゃるとおりですね。病気になってから病院で治療を受けるのではなく、健康診斷で自分の健康狀態を認識することで、未病のうちに病気の芽を摘むことが大事。未病?予防の意識もヘルスケアにおけるメガトレンドのひとつです。
これによって重癥化と長期化を防ぎ、生活習慣に気を付けて病気になることを予防すれば、個人のQOLの低下を防ぐだけでなく、お財布にも優しく一石二鳥なんです。ちなみに日本の醫療費は現在約40兆円ですが、2025年には54兆円になると見通されています。
市川:醫療費の削減のためにも、未病?予防の考え方が重要なんですね。未病?予防に対して重要な役割を果たすものとして、何がありますか?
橋本:プライマリ?ケアです。アメリカでの生活経験もある市川さんは説明する必要はないと思いますけどね。
市川:身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な醫療として、プライマリ?ケアのことは知っています。日本では馴染みないかもしれませんが、いわゆるファミリードクターがそれにあたるんですよね。
橋本:予防?未病を実現するためには、いつでもちょっとしたことを相談できる環境が重要です。命に関わる狀態での緊急の治療や高度で専門的な治療を擔當する大學病院などの総合病院ではなく、クリニックを中心とするプライマリ?ケアが予防?未病の中心になると考えていて。海外生活の経験から、アメリカの醫療は便利、あるいは進んでいると感じますか?
市川:どうでしょう。アメリカは醫療費が高い分、できるだけ病院に行かないように気をつけてはいましたね。日本では、風邪っぽいな、熱っぽいなと思ったら、當たり前のように病院に行きますけど、アメリカではまず市販薬で済ませようとします。たとえば、耳が痛いから耳鼻科ではなくて、まずはファミリードクターに診てもらう。ただ、気軽に病院に行けないことによるデメリットもあると思いますけどね。
橋本:一箇所で診察が済めば、まとめて薬を処方してもらえるじゃないですか。様々な癥狀や悩みを相談できてアドバイスももらえるでしょう。専門醫にかかる必要があると判斷されれば、紹介狀を書いてもらえます。気軽に行けて便利なクリニックがあれば、重癥化につながりにくくなるでしょうし、結果として醫療費も抑えられると思います。
市川:醫療費増大の意味でいうと、悪化してから病院に行くのと、そんなに悪くないのに薬を処方してもらうでは、どちらがいいのかわからなくて。
橋本:たとえば単なる風邪であればだいたいは自然治癒するでしょうが、こじらせる場合もあるでしょうし、また、風邪と紛らわしい重大な疾患を見分けることが重要です。統計的にはわかりませんが、重癥化していくと治る可能性が低くなりますから、予防と未病、または軽癥の段階で芽を摘む方がトータル的にコストも安くなると思いますね。車もそうですが、故障してから直すよりも日々メンテナンスしたほうが、長期的に見てコストもかからず長く乗れたりしますよね。特に糖尿病やがんなどの重大な病気の場合には、なおさら日々の生活習慣改善と、早期発見?早期治療が大切になります。
市川:私の世代としては、自然派が進んで健康意識が高いからこそ、なるべく薬を飲みたくない、病院に行きたくないという発想が大きいかもしれません。でもそこには矛盾や葛藤もあるので、未病と予防の認識を正しく理解することが大事なんですね。
市川:新型コロナウイルスの影響から遠隔醫療が盛んになっていると聞いたことがあります。今後、遠隔醫療は醫療の中心になっていくのでしょうか?
橋本:仮にそうだとしても、オフラインの醫療がなくなるわけではありません。重要なのは、OMO(Online Merges with Offline)という考え方なんですね。OMOは訳すると「オンラインとオフラインを融合する」という意味です。市川さんはオンラインショッピングはよくしますか?
市川:はい、かなり買っています。私、実物を見なくても全然平気なんです。車はさすがに実物を見たいけど、食料とか調理用品とか。一度買ったらもうひとつなんて必要ないのに、よくフライパンをレコメンドされますよ(笑)。遠隔醫療についても、この2年間でオンラインに慣れたということが大きいので、できるものならば受けてみたいです。
橋本:オンライン診療はこれから増えてくると思いますよ。必要なのは、オンラインとオフラインを統合するシステムなんです。オンラインショッピングでは、購入履歴が管理されますよね。たとえば洋服屋さんでは、會員カードやアプリがあって、実店舗で購入した履歴も追加されるシステムになっていたりします。
お客さんにとっては、どこで何を買おうが自分の購入履歴を一括管理できて、また最新の情報が屆く。お店側はレコメンドやダイレクトマーケティングを適時に行えて、在庫管理もできる。私たちはこのような世界を醫療分野でも実現したいんです。
市川:どのクリニックに行っても自分の履歴が共有されるということですか?
橋本:まずは同じブランドのクリニック內、いずれはすべての醫療機関共通のシステムを実現したいと考えています。受診履歴だけでなく、日々の食事や運動の履歴が統合されると、もっと便利に健康増進できるでしょうね。これまでは病院中心の醫療が細切れに行われてきましたが、これからは患者中心のシームレスな醫療が當たり前になっていくはずです。
市川:一度に情報にアクセスできて利便性が高まるのはうれしいですが、最終的には自分が気をつけなければいけませんよね。私みたいにラクをしたい人には、運動や食事の具體的な提案があったらいいな(笑)。でも、自分自身の健康情報ってなによりの個人情報ですよね。どのお醫者さんにも知られたくない情報もあるかもしれません。その辺りはどう考えればいいんですか?
橋本:それは一般的な個人情報と同じで、自分の意思がなければ提供しない、でいいと思います。このデータは渡す、渡さないということをコントロールできるようになることが大切ですね。
市川:お話を伺って、総合商社ならではの醫療への関わり方がわかってきました。
橋本:総合商社は全世界に拠點とネットワークを持っているので、各地の情報や企業にアクセスできます。マーケットのニーズを吸い上げて、足りないものは人材でも機能でも、世界中から探してきて補完して、それらを有機的につないでいく。そこから事業を創り出して、育み、またつないでいきます。この掛け合わせからビジネスを生むことが商社ビジネスの醍醐味なんです。
市川:さまざまな掛け合わせから、ヘルスケアという領域にはどんな可能性がありますか?
橋本:都市開発?データ?IT?通信?エネルギーなど、どれと掛け合わせてもニーズあります。たとえば、雙日は工業団地の開発?運営も行っていますが、工業団地で働く人がその周りに住んで街をつくると、クリニックや病院などの醫療機関が必要になって、病院誘致や醫療機器や醫薬品の物流整備といったニーズが出てきます。これらのチャンスに挑戦しながら経験値を増やしていきたいですね。それから醫療保険にも注目しています。アメリカで盛んに行われているマネージド?ケア(管理醫療)をご存知ですか?
市川:いえ、はじめて聞きました。
橋本:アメリカには日本のような國民皆保険制度がなく、民間の醫療保険事業者が保険プランと醫療サービスを提供しています。収入のほとんどは、加入會員からサブスクリプション方式で徴収した會費(保険料)なので、會員が健康になり病院に行く回數が減るほうが事業者としては儲かります。そして結果的に保険料も下げることが出來て、會員の方々の負擔も減り、醫療の質を落とすことなく、醫療費全體の削減につながります。これが「マネージド?ケア」の仕組みなんです。
治療履歴や健康診斷の結果情報や畫像を、患者も醫師もオンラインで確認?共有できるシステムや、ポイントやスポーツジムの割引などを盛り込んだプログラム、そして健康的な行動を促すヘルスコーチングを積極的に導入し、外來數が減るなどの効果が出ているそうですよ。
市川:私のようにラクしたい人を振り向かせるには効果的だと思います。一方で日本の醫療はどうですか?
橋本:日本の醫療は、全國どこでも一律の費用で高品質の醫療を受けられる素晴らしいシステムですが、患者が來るほど病院は儲かるシステムですし、獨自の健康増進プログラムは保険の対象にならないので、そのための工夫が限られてしまいます。雙日としては、まず海外での実體験?成功體験を積み、いつか日本に逆輸入できるようなビジネスをつくり上げていきたいと思います。市川さんは何か便利になってほしいことはありますか?
市川:個人的にはお薬手帳がもっと使いやすくなればいいなって。いつも忘れてしまって、シールだけもらって帰るんです(笑)。
橋本:あれが完全にデータ移行されていれば、どんなに便利なんでしょうね(笑)。ようやくコロナワクチンの接種証明書も電子化されるようになりましたけど、これもデジタル化が進む世の中としては當たり前の流れなんですよね。
市川:まさにそうですね。ニーズがあるから新しいサービスをつくっていく。そうやって徐々に世の中を変えていくことこそが、雙日の役割なんですね。醫療サービスを受ける私としては、もっと便利で安心な社會になっていくことを期待したいなと思います。
市川 紗椰
1987年生まれ。『Sweet』(寶島社)『BAILA』(集英社)『vikka』(三栄書房)など、多數のファッション誌でレギュラーモデルとして活躍。モデル以外にも、タレントとしてテレビやラジオ、広告などに出演。音楽?読書?アニメ鑑賞?鉄道?相撲と趣味は幅広く、その博識ぶりから専門誌で連載を持つなど、さまざまな分野のカルチャーに精通している。
市川紗椰さん Instagram
https://www.instagram.com/sayaichikawa.official/
橋本政和
雙日常務執行役員 / インフラ?ヘルスケア本部長
1990年一橋大社會卒、日商巖井(現雙日)入社。
米國駐在を経て、2011年環境?都市インフラ推進室長、17年執行役員環境?産業インフラ本部長、21年4月から現職。